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■1,700万円を失いかけた男...

2015-05-19カテゴリ:

  もし、あなたが不動産を所有しており、他人に貸付を行なっている。
その貸付けしている不動産の賃料が滞納となり、入金されない場合、
受忍出来る範囲の金額は果たして、おいくら位だろうか?

 10万円、20万円? いやいや50万円位までかな...
100万円位までとなると、それは相当な器量人な方だと思う。

 先程まで私の目の前にいた男、と言っては失礼だが、今日の主人公となる
その地主さんは約1,700万円相当の未払い賃料を受けていた。

上役に連れられて、初めて会ってみた。 

001

 内容は3物件の貸倉庫、工場が有り、賃借人は2社だ。
その内の1社に対し、比較的大きな貸工場を2棟貸付けている。
その未払い賃料だけで8カ月分、何と約1,200万円相当もある。

 当社が関与していた取引はその内の1物件。 
結構以前からの契約で、当社での賃料管理は行なってはいなかった。
残りの2物件は他社の取り扱いであるが、総括的に対応する事になる。

 状況の確認のため、質問を始めてみて驚いた。
大家さん、地主さんというよりは、まるで篤実な仁者のような方に見えた。

 とても穏やかな口調で、丁寧に答えていただく。
その際、口元はかすかに微笑しているかのようにも見える。
しかも、滞納している相手方に対して愚痴や恨み節を一言も発しないのだ。

 この方は、相当な度量の御仁なのだ。 そう思わざるを得なかった。
このように、自らは決して事を構えようとはしない方が、
世の中にはいるものだ、そう思っていたところに.....突然。

 傍にいた奥様から目の醒めるような一言が、室内に飛んだ。

『この人は優しいから、相手に舐められているのですよ!』

 いつの世も、男のこのような態度に奥方様は手厳しい。

 恐る恐る、ご主人の顔を覗いて見ると、顔を下に向けてはいるが、
その表情は完全に笑っている。
このような方と何を争っても、きっと勝ち目はないのだろう。

 その後は、ゆっくりと顔を上げて、本当に微笑したままだ。
我々の方がむしろ、早めに法的手段に移行しましょう、と言う外は無い。
それについて、ようやく同意していただいたような形となった。

002

 それから数日が経ち、意外とあっけない形で2件分は一挙に解決した。
一瞬にして、約1、200万円の滞納賃料が入金となったのだ。

 その報告に再度訪問して、地主さんの顔をまた見る事が出来る。
ある程度、予想はしていたものだが、喜びの表情は見せてはくれなかった。

  
  『そうですか、(お金が)入りましたか...』
それ以上でも、以下でも、後はまた何も言わない。

 そして一瞬だが、少しだけ神妙というか、寂しそうな表情を見せてくれた
ことの方が強く印象に残った。
 
 もしや、滞納者に無理をさせて支払ってもらったのか、
とでも思われたのだろうか。

 
 奥様の言う通り、弁護士による催告書及び契約解除通知が効いたのだろうか、
それとも相手がお金を留保していたのか、本当のところは分かる術もない。

 地主さんに徳分があったから、それが単に元に戻って来たに過ぎないのでは
ないのか、そう思ったのは私の見立違いか。
 
003

 それにしても、失いかけていた多額の入金があった男の反応には、
どうしても見えなかった。

  
 残るもう1件は係争中となっているが、これもいずれ落ち着くところに
落ち着くだろう。 

  
 そう思いながら、見事に開け放たれている門を自由に出る。
その脇では小学生の男の子2人組が無邪気に虫取りをして遊んでいた。

  到底足元にも及びもしない。
自分がその虫のよう、非常に小さい存在に見えた。

004

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